研修医から始めるマネーリテラシー(2) 金利・円安と医業への影響

医師こそお金の知識大事!前回から引き続きマネーリテラシーのシリーズです。今回はドル円を始めとした為替(主に円安)の仕組みや、医業への影響について説明し、厚生労働省や財務省の行動パターンから、この先医業に起こりそうな未来を勝手に予想してみたいと思います。

研修医から始めるマネーリテラシー(2) 金利・円安と医業への影響

目次

  1. 2国間の金利差が為替の主要要因
  2. コロナ後のバラマキと米国・日本の金利差
  3. 医業に対して円安は超逆境
  4. 医療機関の将来を予想する(2025年2月時点)
  5. まとめ;金利が医療にも大きく影響することを理解しよう

2国間の金利差が為替の主要要因

為替レートを決める大きな要素の一つが金利です。金利とは、お金を借りる際に支払う利息のことで、各国の中央銀行が決定する政策金利を基準にしながら、市場の需給によって変動します。

金利と為替の関係の基本として、金利が高い通貨は買われやすくなり、通貨高となります。現在(2025年)、アメリカの金利は高く、日本の金利は低いため、ドル高・円安の傾向が続いています。

また、金利が国内経済に与える影響として、金利が高いと企業活動は縮小し、インフレが抑制される傾向があります。これは、企業が借入する際のコストが増加し、先行投資を控えるためです。逆に、企業活動を抑制できる経済状況だからこそ、中央銀行は政策金利を高く設定できるとも言えます。金利を調整することで景気をコントロールするのが、クラシカルな金融政策の姿です。

コロナ後のバラマキと米国・日本の金利差

コロナ禍の経済対策として、世界中で大規模な財政出動が行われました。その結果、インフレが発生し、各国はインフレ抑制のために金利を引き上げる動きを見せました。

しかし、ここで米国と日本の対応に差が生じました。米国は経済的な余力があり、積極的な利上げを実施できました。一方、日本は長年の経済低迷の影響で大幅な利上げが困難でした。

金利を引き上げると、冷え込んでいる企業活動がさらに悪化し、変動金利で住宅を購入した国民の負担も増加するため、大きな反発が予想されます。しかし、金利を上げなければ円安が進行し、物価高を招きます。こうしたジレンマの中、日本銀行は身動きが取れない状況に陥っているのが直近の状況かと思います。

医業に対して円安は超逆境

さて我々医療職への影響を考えてみましょう。医業は基本的に輸入品を消費する産業に近い属性を持ちます。病院やクリニックで使用される医療機器や医薬品は多くが輸入品であり、円安によって調達コストが増大します。特に、医療機器の導入や開業時の資材コストは為替の影響を大きく受けます。

一方で、収入面は為替の影響をほとんど受けません。保険診療の売上は診療点数によって決まるため、円安になっても診療報酬が増えるわけではありません。自由診療の場合は価格転嫁が可能ですが、競争が激しく、むしろデフレ傾向にあります。結果として、円安は医業全体の経営状況を悪化させています

KCP ニッチな麻酔科医
KCP ニッチな麻酔科医
要するに支出だけ増えて収入は増えない訳です。経営状況が悪化するのも無理はありません。

医療機関の将来を予想する(2025年2月時点)

ここからは筆者の個人的な予測です。

アメリカは依然として経済が好調で、インフレ抑制のために高金利政策を維持すると考えられます。一方、日本は日銀が慎重に利上げを進めているものの、大幅な利上げは期待しにくい状況です。そのため、日米の金利差はしばらく拡大したままで、円安が長引くと思われます。従来の1ドル120円台みたいな世界にはしばらく戻らないでしょう。

政治的観点からも、日本は低金利・円安を維持したい意向が感じられます。住宅ローンを抱える層への影響や、円安による税収増加を考慮すると、政府としては円安を歓迎しているでしょう。なお日銀と政府は独立した機関ですが、政策の方向性については大人な調整が行われていると推測されます。

KCP ニッチな麻酔科医
KCP ニッチな麻酔科医
金利が高い状況でローンは組みづらいですからね。

また、厚生労働省の動きも注目に値します。団塊世代が80歳を超え、医療費の増加が避けられない中、診療報酬の引き下げや高額医療費の自己負担増加、社会保険料の上限引き上げなど、財源確保の動きが進んでいます。厚労省は、円安による医療機関の経営悪化を理解していながらも、診療報酬を引き下げる方向で政策を進めています。

この状況を、厚労省は「医療機関の集約化」の好機と捉えている可能性があります。日本の医療機関は中小規模の病院が多く、経営効率が悪いと指摘されてきました。円安によるコスト増加の影響で、経営基盤の弱い病院は淘汰され、大規模病院への統合が進むと予測されます。

医療機関は今後、都市部では経営が厳しくなり、中小病院の廃業やM&Aが加速するでしょう。勤務医の人件費も当然削られます。2026年度から都市部の開業規制も同時に始まります。都心中心部の不動産価格はかなり高騰しているうえに、建築資材の価格も3割増の状況です。日銀の利上げで借入の返済額も増加します。都心の開業は以前とは比べ物にならないくらいハードになっていくでしょう。

要するに勤務医にしても開業医にしても、都心にいるのは結構苦しいのではと思います。地方では、行政のインフラ保護が期待されるため、都市部ほどの崩壊状況にはならないと考えられます。

また、求人面では、円安の影響から遠い、人件費中心に収益化できる事業である、手術などの医師の技術に依存する収益モデルが重要視されると考えています。その結果、外科系診療科や手技のある診療科の医師が重宝され、特に地方での高待遇募集が増えるのではないでしょうか。

まとめ;金利が医療にも大きく影響することを理解しよう

  • 金利が為替に大きく影響する
  • コロナ後のアメリカの利上げ、日本の低金利が円安を招いている
  • 円安は医療機関にはマイナス
  • マクロ的にも政府意図的にも円安は長引きそう
  • 厚労省は円安を利用して病院集約化、都市部の締め付けをしたいのでは
  • 高収益手技の診療科が重宝されそう
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KCP ニッチな麻酔科ライター

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KCP ニッチな麻酔科ライター

フリー麻酔科医のライターです。ニッチな麻酔の記事を書いたりしていますhttp://note.com/kcp。仕事依頼などはX(Twitter)のDMから。https://twitter.com/KCP58227768

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