わずか1000万円で買われた私の人生〜奨学金の代償となった9年間〜

私は現在医師4年目。実家は裕福でなかったので、地方で9年間働けば返済免除になる自治体の奨学金を借りて大学生時代を過ごした。でも今強く後悔している。田舎の高校生を札束で殴るビジネスに引っかかった私の人生は、たった1000万円でとてもハードなものになってしまった。

わずか1000万円で買われた私の人生〜奨学金の代償となった9年間〜

目次

  1. 高校生の私は、奨学金の代償を何も知らなかった
  2. 地方では女性医師が男性と出会う機会は少ない
  3. 医局人事の根強い地元では自由に働けるわけではなかった
  4. 1000万円って本当に大金?時間はお金では買えない
  5. 奨学金脱退は絶対不可能な制度設計に変わりつつある
  6. 地方にはお金を払ってでも回避したい何かがある
  7. 田舎の高校生を札束で殴るビジネス的構造がそこにある

高校生の私は、奨学金の代償を何も知らなかった

私が大学生時代に借りた奨学金は、9年間地元で働くことを条件に返済免除になる奨学金だ。ただ9年間地元で暮らせばいい。受検を控えた当時高校生の私は、ただそれだけだと思っていた。

…でもそれは甘かった。何も知らなかったし、調べもしなかった。親もお金の知識もなかったし、そもそも医療界というものも全然知らなかった。
私はもっと受験勉強を頑張ればよかったし、お金も知人や民間から借金をすればよかった。でも、怠惰ゆえそれをしなかった。行政はあくまで、「足りない」私達家庭に、慈悲と選択肢を与えてくれただけだ。

地方では女性医師が男性と出会う機会は少ない

昔から、30歳くらいまでには素敵な人と出会って恋をして、結婚をして、どこかのタイミングで都合良く出産をして、子育てをしながら仕事も両立して...なんて思っていた。

でも、地方には、私のような奨学金でしばりのある、休日も少ない忙しい医師と出会ってくれる素敵な男性は少ない。当たり前だ。素敵な人はみんな都会に行っちゃう。

忙殺される生活の中で、自分が好きになれる人と出会うのってどう考えても無理ゲーだと思う。そして、ストレートで医学部を卒業したとしても、9年間も経ったらその時には30代中盤だ。黙って仕事だけしていたら子供も産めないかもしれない、っていう恐怖はついて回る。恋愛、結婚、子供、仕事。なにかを諦めなきゃいけないのはどこに住んでいてもそうなんだろうけど、田舎では妥協の度合いが桁違いだなって思う。

医局人事の根強い地元では自由に働けるわけではなかった

もう一つ地方で働いて分かったことがある。地方は医者の転職も自由ではないということだ。多くの場合、いわゆる医療過疎地域と呼ばれる田舎では、医局人事が地域医療を支えている。医局は絶対なのは、医局員も、民間病院も同じ。病院は医師派遣が途絶えると生き残れないから、勝手に医師を雇うこともできない。だから医局をやめようにも就職先がなかなか見つからない。ただ地元にいればいいなんて甘かった。
医局員でなければ行かないような、医療過疎地域で、ご近所の誰それのお話をする数年間。先進の医療知識とは対局の職場。決して無駄だとは思わないけれど、20代や30代の伸び盛りの時期でやらなくても、とは思う。

それに、田舎で暮らしながら見るインスタは攻撃力が強すぎる海外留学したとか、結婚して子どもが生まれた高校の同級生を見ていると、「私は何をしているんだろう」と悲しい気持ちになる。

1000万円って本当に大金?時間はお金では買えない

かつての私は、1000万円は大金…だと思っていた。いや、実際に安い金額ではないだろう。それは分かる。でも、サラリーマン家庭で育った私は、お金や医師免許の本当の価値を考える機会はほとんどなかった。
正直、医師にとって1000万円を稼ぐのはそこまで難しいことではない。休日のアルバイトを探せば、1年か2年あれば稼ぐことができる金額だ。美容外科など、自由診療に行けば、初年度から年収2000万円は確実に超えられる。

そういう意味で、9年間という人生を考えると、1000万円は人生に比べたら大金とはとても言えない金額だった。私は1000万円という値段で、素敵な出会いとか、仕事の楽しさとか、都会での楽しい生活とか、20代30代でしかできない人生の最高の瞬間を奨学金に売ってしまった。一度売ってしまった人生は返ってこない。

奨学金脱退は絶対不可能な制度設計に変わりつつある

実際、奨学金の危険性に気づいて脱退した人は多いようだ。ただし、奨学金を提供する自治体側は、たかだか数十万で済む利子の利益よりも、一人を数年間新しく雇用すると数億円はかかる医師に、長く安く働き続けて欲しい。だから、奨学金脱退が相次ぐうち、奨学金脱退は絶対不可能な制度設計に変わっていった
私達の時代は、それこそ医師免許を諦めるくらいの覚悟じゃないと奨学金制度からは逃れられないようになっている。逃れられないように事後法で制度を変えた自治体もある。それこそれっきとした法律違反だというのに。でもなぜか訴訟にはならない。奨学金を巡るなりふり構わない姿勢に気づいたのも、奨学金を借りてからのことだった。

地方にはお金を払ってでも回避したい何かがある

地方で医師が足りないのには理由がある。都市部にはお金で買えない何かがあり、地方にはお金を払ってでも回避したい何かがある。

公務員的に変革ができない地方の組織。凝り固まった古い人間が仕切る職場。輝く人材が抜けきって憧れの対象になる人のいない、下降トレンドの人材教育。こういうお金に換算できないリアルは、高校時代からSNSにいくらでも書いてあったなあ。どうして気がつかなかったんだろう。

田舎の高校生を札束で殴るビジネス的構造がそこにある

SNSで公官庁出身の人が、「医学部奨学金は、何も知らない芋高校生を札束で殴るビジネス」と書いていた。医師はプライベートを犠牲にして患者さんにその人生を捧げれば良い。昭和から続く正義を振りかざして、官庁の人は奨学生を安く使うことを十分に理解している。9年間の約束だったのに、いつの間にか「大学病院勤務の間は含めない」という条件が追加された。更に長く、私達は奨学金にこき使われるようだ。

昭和に敷かれた地方ローカル線のレールの上に、今日も私は置き去りにされている。

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KCP ニッチな麻酔科ライター

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KCP ニッチな麻酔科ライター

フリー麻酔科医のライターです。ニッチな麻酔の記事を書いたりしていますhttp://note.com/kcp。仕事依頼などはX(Twitter)のDMから。https://twitter.com/KCP58227768

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