宿日直許可の実情に迫る!働き方「改革」であって働き方「改善」ではない

2024年度からの「医師の働き方改革」の一環として、宿日直許可制度が開始されました。軽い労働だよ、と労働基準監督署に申請することで、宿直業務が労働時間とみなされなく制度。医師を守るための制度のはずなのに、実際のところは逆に負担が増えたという声が聞かれます。

宿日直許可の実情に迫る!働き方「改革」であって働き方「改善」ではない

目次

  1. 宿日直許可を受ければ実質「寝当直」扱いになる
  2. 現場は働き方改悪に、有給休暇を使って手術する整形外科医も
  3. 医局バイトも縮小傾向で生活ができない医局員が爆誕
  4. 働き方「改革」だけど「改善」するとは誰も言っていない
  5. 専門医療のハードランディングを予想する

宿日直許可を受ければ実質「寝当直」扱いになる

働き方改革の一環として、「宿日直許可」の制度が開始されました。本来、法的に認められる「当直(医師業に限らず)」というのは「見回り程度の軽い業務で、基本はちゃんと寝られる仕事」です。が、しかし、これまでは通常日勤と同じか、それ以上の負荷がかかる救急業務をやらせるということが常態化していました。

これを防ぐために、今回の働き方改革のため、労働基準監督署が間に入ることになりました。病院は本来の軽い業務であることを労働基準局に申請し、宿日直許可というお墨付きをもらい、そのかわりに当直業務は労働時間に含めない。という制度になりました。

宿日直許可は残業時間規制とペアで施行され、医師の長時間労働を防ぐのが目的です。医師の労働はこれまで、労働基準法はおろか、過労死水準を遥かに超える地獄の長時間労働が当然のものとして黙認されてきました。

しかし、当直を見た目の労働時間から外せるようにしたことで、ようやく過労死水準(月平均残業時間が80時間 )まではOK、という法律に則った働き方ができるようです。

参考:医師の働き方改革(厚生労働省)
筆者
筆者
実際は見た目の労働時間から、実態の拘束時間を外すのが主目的のような制度ですよね。しかも、それでも過労死水準までOKっておかしいですよね?我々の監督省庁はこういうところなんですよ。

現場は働き方改悪に、有給休暇を使って手術する整形外科医も

さて、制度設計の時点からツッコミどころしかない医師の働き方改革ですが、現場ではもっとエグいことになってます。私の知っている整形外科の先生の事例をご紹介しましょう。
その先生の病院では週1回、整形外科医の持ち回りで外科当直をやっていました。以前は、救急対応した時間だけ時間外労働として換算し、その他に当直手当が出るような形式でした。救急当番の夜はだいたい骨折した患者さんが入院するので、翌日午前中に手術をして午後はお休み、という実運用になっていました。
しかし、2024年度に入ってから、この働き方が法律上NGになったとのことで、当直翌日の手術が合法的にできなくなってしまいました。
解決策として、なんとその先生の有給休暇を使い自己研鑽として手術をする羽目になりました。こうしないと手術室運用上、1週間手術待ちになってしまうとのこと。働き方改革の結果、労働状況は変わらないのに有給休暇だけが減ることになったのです。

筆者
筆者
この話、嘘だと思いますよね?普通の感覚ならそうだと思います。でも、これは本当の話です。医師の働き方は、普通の感覚では通用しないのです。

医局バイトも縮小傾向で生活ができない医局員が爆誕

さらに、大学医局から関連病院への医師派遣も縮小傾向になっているとの報道が出ています。(※本記事は2024年9月に書いています)

医局バイトは医局員の収入源であり、医局にいると基本的に闇バイト(医局の許可を得ていないバイト)が禁止されているところも多いでしょうから、医局員は収入も減ることになってしまいます
大学病院にいると収入も低い、自由にバイトもできない、相変わらず労働時間は長い、法人の体面のために仕事を自己研鑽扱いにさせられる。医師の働き方改革の結果、こんな医師○しコンボが成立しました。

筆者
筆者
たぶん働き方改革で一番割を食らったのは大学医局員ではないでしょうか。

働き方「改革」だけど「改善」するとは誰も言っていない

今回の働き方改革は、露骨に日本の医師業界の駄目なところが出たと思っています。そもそも歴史的な昭和のダメ労働慣習を改革してこなかったところが根源ではあるのですが、今回の改革の仕方もやっぱりダメでした。
まず、厚生労働省が過労死水準(年960時間、条件付きで1860時間)まで時間外勤務を事実上合法としてしまったこと。労働基準監督署が、労働者(医師)の味方でなく経営側にお墨付きを与える立場になったこと。そして大きなマーケットである医師のバイト市場に労基が噛むことになり、医師の自由な収入機会を奪うことになったこと。大病院の病院経営者層は頭が固く、慣習的な労働慣習を続けようとさせていること。
どこも中途半端な決断をした結果、働き方改革は働き方改悪になりました。さてこのままだと将来の医師業界はどうなるでしょうか。

専門医療のハードランディングを予想する

筆者は、この先の保険診療医師業界は、ハードランディング(崩壊に近い状態に着地する)するものと予想しています。今回一番割を食らったのは大学医局です。労働状況は悪くなり収入が減ったのでは生活できませんから、医局員の脱出が増えて医局は維持困難になる方向でしょう。

それでも、旧態依然とした専門医機構は、大学医局にいないと専門医が取れないようにするでしょう。専門医キャリアを捨てる医師が増え、専門医は希少になると思います。地方では専門医による医療は維持困難になっていくでしょう。

また、長く苦しい生活に耐えた専門医の先生方は都市部にうつり、美容に限らず自費診療で爆益を狙う、というベクトルになるものと予想しています。いずれにせよ、今の保険診療のあり方は、マンパワーの面でも専門性が崩壊するものと思っています逆に専門性の低い医療は人余りの状態となり、とくに都市部は医師の低所得化が進むのではないでしょうか。

今年(2024年)の働き方改革はきっかけではあったものの、長期的なベクトルとしてはいずれにせよ崩壊に向かう流れは避けられませんでした。これまでの常識に沿ったキャリア選択では地獄を見そうなこの時代に、皆さんは何を重視してキャリアを選択しますか?

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KCP ニッチな麻酔科ライター

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フリー麻酔科医のライターです。ニッチな麻酔の記事を書いたりしていますhttp://note.com/kcp。仕事依頼などはX(Twitter)のDMから。https://twitter.com/KCP58227768

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