高給医師バイトのひみつ:そのカラクリと将来性とは!?

医師のアルバイトの給与は一般的に高いです。資格の貴重さや、病院の収益などの他に、医局員の生活水準確保や、医局からの医師供給に対する政治的な要素もあったりします。本記事では、バイトの給料に関わるいろんな要素を考察してみました。

高給医師バイトのひみつ:そのカラクリと将来性とは!?

目次

  1. 常勤の給与水準とアルバイト
  2. バイトの給与水準
  3. 医局と関連病院アルバイト
  4. 麻酔科の事例をご紹介
  5. 雇用側からみたバイト代
  6. バイト代の高さは通勤のキツさとやりがいのなさの裏返し

常勤の給与水準とアルバイト

専攻医のお給料は、厚生労働省が公表している賃金構造基本統計調査によると600~900万円ほどのようです。 これは大学病院に勤務する医師が多いことも手伝っているものと考えられ、一般よりは安いなという印象です。600万円では暮らせないことはないですが、医師免許を取得するのに要した手間や年数に比較して十分とは言えず、アルバイトをする方が多いのが実際のところだと思います。

大学病院以外の民間病院であればだいたい1000万円程度からスタートだと思います。ただし専攻医の間のアルバイトを禁止している、もしくは事実上無理な施設が多いものと思います。

バイトの給与水準

専門性の低いアルバイトは日給5~8万円程度で流通しています。紹介会社を当たれば案件は無数にあり、遠方もターゲットに入れれば仕事を確保することは難しくありません。時給換算にすると7000~10000円/時間が一般的な水準です。

バイトと常勤の単価の違いを日給換算で計算してみましょう

例えば常勤先での給与が年収が800万円として、週5日勤務だとしましょう。年間勤務日数はおよそ225日。(365日-土日祝日-有給年10日)。常勤は日給換算だと35000円程度になります。それと比べて2倍前後の日給が稼げるのが、医師のアルバイトです。
毎週8万円のアルバイトをすれば、年50週稼働するとして400万円ですから、週1日で年収の半分を稼ぎ出せることになります。

医局と関連病院アルバイト

 大学病院勤務だと常勤としてもらう給料が低いので、アルバイトで生計を底上げすることが事実上必須となっています。このため多くの医局では、関連病院のアルバイトを市場より高額な条件で独占し、若手のお金の不満を解消しながら他施設で勤務する経験を積ませるという慣習が続いてきました。

病院としても、バイト代としては赤字だけど安定して医師を派遣してもらえるので助かりますし、紹介会社を使わずにすみます。

筆者(KCP)
筆者(KCP)
紹介会社経由で医師を募集すると、医師に支払う給料の何割か(一般的に2割)の紹介料を紹介会社に支払わなければなりません。10万円で医師を募集すると2万円の手数料があるので人件費は12万円になるということです。しかも紹介会社経由だと得体のしれない医師が来たりしますから、それよりは多少バイト代を高くしても医局から派遣してもらったほうが病院としても安心できるというわけです。

この医局と病院のWin-Winな関係は今も続いており、特に医局の依存度の高い地域では支配的です。 私の知っているところでは、医師確保が難しいので市場の1.5倍程度の時給で医局から派遣を受けています。 一方、医師の流動性の高い地方(都市部や人口に比べて医師数が多い場所)では、この医局への「袖の下」をコストとみなして廃止し、自力で医師確保をする病院も昔より増えてきました。

筆者(KCP)
筆者(KCP)
なお、医局の依存度はバイト募集の流通にも関わっています。医局が強い地域では紹介会社にバイトがなかなか回ってきません。充足、という面もありますが、医局員以外を募集すると医局は手を引くぞ、という圧力があったりするのかもしれません。

麻酔科の事例をご紹介

専門性の高いお仕事、例えば麻酔、消化管内視鏡、分娩、各科の専門外来などは専門バイトとして流通しやすく、かつ給与水準も高めになっています。

筆者は麻酔科医なので色々麻酔のアルバイトもしてきましたのでご紹介します。

麻酔科専門医の募集は日給10万~12万円が相場となっています。全身麻酔は保険点数は1件あたり60000円~です。消耗品費などを引いたものが病院の収益になります。1日2~3件の全身麻酔を担当することが一般的なので、病院の麻酔の売上は12万~20万円になります。そのうち10~12万円を麻酔科医に、2万円程度を紹介会社に払い、プラマイゼロから数万円の利益がでて、かつ手術件数が増やせる、というわけです。病院としては手術をすると儲かるので、人件費率が高くても麻酔科医を雇って手術件数を増やしたいわけですね。

筆者(KCP)
筆者(KCP)
麻酔科医はバイト代が高いとよく批判されますが、麻酔科医を批判するのは的外れではないかと思っています。どんなお仕事も収益原理と受給に基づいて、資本主義市場の中で価格形成されています。特にバイトは流動性が高いのですから、価格形成も妥当なはずです。麻酔科医の供給が多くなれば単価は下がります。供給が多くないとすれば、キツイとかストレスが多いとかつまんないとか長く働けないとか、供給が増えない理由が存在するのです。

余談:麻酔の保険点数から考える医師の妥当な年収

麻酔科の保険診療点数で、2時間以上の麻酔では30分ごとに600点(6000円)の加算がつきます。(麻酔科の有資格医でなくても取れる加算)。人件費率がおよそ8割とすると、30分あたり4800円。医師の給与は大まかに時給1万円ということで保険点数が設定されていることになります。1日8時間勤務、年間225日稼働とすれば、年間1800万円。つまり保険点数上は、専門性のある医師の人件費は年1800万円(社会保険料の労使折半を引くと年収1600万円が保険診療の設計上妥当な基準と類推できるのでは、と考えています。

雇用側からみたバイト代

常勤を雇うと、社会保険料の労使折半分が余計にかかります。年収1500万円であれば、追加で160万円程度の社会保険料が追加の人件費としてかかります。さらに、産休・育休などで稼働しない日の収益減少、有給などの日に代打を雇う費用などで、提示年収にプラスして数百万の人件費が追加でかかっています。しかも日本の雇用制度は大変解雇しにくく、変な人材を雇用してしまうリスクを抱えています。

バイトにはそのコストがありません。社会保険料の労使折半もないし、解雇も概ね自由です。働く側からみてバイトの給料はとても良いのですが、雇用側からみると実際はそれほどの差はないのではと思います。

バイト代の高さは通勤のキツさとやりがいのなさの裏返し

給与面だけを考えれば、バイトの比率をあげて常勤を持たない働き方が効率がよいです。しかしバイトにはキツさもあります。まずは通勤。なれない場所に遠距離通勤になりやすく、消耗します。また基本的に働く内容は作業に近く、裁量権もないのでやりがいがありません。工場のレーン作業は単調すぎてキツイ、というのを聞いたことがあると思いますが、それに近いです。バイトは高いお金をもらえるけど消耗するのです

これまで見てきたように、バイトは受給や収益原理などの経済的な要素や政治的な要素、キツさなど複合的な原理に沿って、給料水準が定着しています。バイトを人生にどう使うかは、あなた次第です。もしバイトのご経験がなければ、まずは紹介会社に登録して、どんなバイトがあるか眺めてみてはどうでしょうか。

KCP ニッチな麻酔科ライター

この記事のライター

KCP ニッチな麻酔科ライター

フリー麻酔科医のライターです。ニッチな麻酔の記事を書いたりしていますhttp://note.com/kcp。仕事依頼などはX(Twitter)のDMから。https://twitter.com/KCP58227768

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