イギリス看護師として感じる日本とイギリスの看護観の違いとは?
イギリスで看護師として働き始めて気づいた日本のならではの看護観の特徴や、それぞれの国で異なる文化や価値観、おそらく宗教間の違いからも見えてくる看護観の違いについて紹介する。
目次
患者の希望を優先させる看護
日本で看護師をしていた時に違和感を覚えることは多々あった。例えば、慢性期の腎臓病を抱える患者が多くいた病棟で働いていた頃の話。この先の人生が長くないことが予想される患者さんがいた。
彼女は糖尿病も患っていたが、甘いものが大好きで看護師の目を見計らっては、隠れてお菓子を食べることが日課であった。同僚看護師は、それを見つけては毎度のように注意し、ミーティングの中でも看護師全員に、彼女の行動に注意するようにと情報共有をしていた。
私はその時に、彼女の人生、おそらく最後の数年、または数ヶ月に自分の好きなことをして何が悪いのか、と思ったことがあった。私だったら、自分の自分の人生最後は、もしそれが自分の寿命を縮めることであっても好きなことをしていたいと感じる気持ちもわかる。何が正しいかは難しいのだけれど。
こうした日本でのエピソードを踏まえると、イギリスの看護観は少し違うのかなと感じる。イギリスでは、糖尿病患者であっても、糖尿病食もなければ、間食制限等も全くない。糖尿病患者がスイーツを食べていることは当たり前の光景で、それを止めたり、注意することは全くない。
つい先日も、糖尿病患者が、ドーナツを一気に5個食べているところに遭遇した。もちろん自分の意志であるため、それに関して何も言うことはない。肺切除翌日の患者が、タバコを吸う場面に出くわしたときも、それが患者の意志であれば、注意したり、制限することはできない。投薬や採血等も患者が拒否した場合、無理やり説得させるようなことも滅多に見かけない。
イギリスでは、看護師として、知識の共有やメリット、デメリットを伝えることはしても、強要することはなく、あくまでも患者の人生観や希望第一の看護を行っている印象を受ける。
患者への身体制限はありえない!
「せん妄」状態の患者さんにすることと言ったら何を思い浮かべるか。日本の病院では当たり前とも言える身体抑制。新人の頃から患者の安全を守るものと習ってきたが、それは本当に患者にとって良い医療介入と言えるのだろうかと感じることも多い。
私はイギリスの病院で働いて3年目になるが、少なくとも私はこれまで抑制帯といったものは見かけたことがない。この国では、患者の行動を制限するような身体抑制は全くもって常識ではない。
ミトンの使用ですら、患者に使用する前にたくさんのアセスメントや審査が必要になる。この国で身体抑制を患者に使用することはの人権や尊厳に反している行動と捉えられているのだ。
では、どうやってせん妄患者を安全を守るのかと疑問に思うのではないだろうか。イギリスの病院には、主に看護師とともに働く「ヘルスケアアシスタント」という職業が存在する。主な業務としては、バイタル測定、清潔ケアの援助。ベットメイキングなどがある。せん妄の患者がいる場合は、その患者を一対一で看護する役割もある。呼吸器や経管栄養の抜去、転倒転落のリスクがある場合でも身体抑制を使わずに、実際の人が24時間見守ることで患者の安全を守ることができるのだ。
看護師として成長する機会の多い日本
日本の看護ではよく馴染みのある看護計画、看護プランはイギリスにはほぼ存在しない。イギリスで働いていて思うことは、イギリスの看護師はただ看護師の業務をこなすといった毎日。委員会といったようなものもなければ、ミーティング内で決まった患者の看護計画やプランを発表したり、長期患者について看護師全員でお昼のミーティングをするようなこともない。
患者を受け持つにしても患者の状態をしっかりアセスメントして、看護課題やプランを考える必要はない。イギリスの看護師は自分の意思で日々学ばない限り、深く考える機会が与えれていないと感じる。その点で、日本で看護師として働いてきた私にとって、業務が簡潔化されている分、物足りなさと同時に、学ぶことを日々意識しておく必要があると思う。
多文化、多宗教社会ならではの看護
イギリス、特にロンドンは世界一多くの多言語が話されている地域と言われるほど多国籍社会となっている。そのため、さまざまな価値観や信仰に溢れており、当然医療現場においてもそうなっている。
医療者間でも価値観や信仰は異なるし、患者間でも同様だ。日本で育ち、看護を学んだ私の常識や看護観は通用しない場合も多くあり、驚くこともある。食べるものも違えば、自分の健康に対する考え方も異なる。病院食はどの国民、宗教の患者も食べれるように幅広くなっていたり、輸血が宗教上禁止とされている患者のヘモグロビンの値がかなり低いが、何もすることができないという場面に出くわすこともあった。
また、毎日10人前後の家族、親戚が一人の患者に押し寄せ、他の患者が迷惑だ!と怒鳴っている場面や、一切看護師の力を借りずに家族が患者の清潔ケアから食事介助まで全て行うことなど、日々さまざまな文化、価値観を持つ人々に出会うことは面白いと感じる。
日本にはいないイギリスの病院に存在する職種3選
ここでいくつか日本ではレアな職種であり、イギリスの病院で医療者たちを支える大切な職種について紹介したい。
ヘルスケアアシスタント
先ほども紹介した職種。主にバイタルサイン測定、血糖値測定から、ベットメイキングや患者の清潔ケアを行う。せん妄の患者を一対一で看護することもある。日本では全て看護師が行う業務となっているが、イギリスではヘルスケアアシスタントの業務となる。
フレボトミスト
基本的に病棟間を周り、患者の採血を担当とする職種。看護師がやることは緊急時以外はない。またイギリスでは正看護師の免許を持っていても、特定のコースを受講しないと採血を行うことはできない。
ポーター
病院内の人や物の運搬を行う業務。患者の検査出しから、物品の運搬などを行う。日本では看護師や看護助手が行う検査出しもイギリスでは行う必要がない。
郷に入っては郷に従え
国が違えば、同然文化も違うし、信じるものも違う。そのため、さまざまな看護観が存在するのは当たり前であり、オープンマインドでいることは勿論大切だ。しかし、どんな環境で看護師をしてようと、自分の看護観や芯となるものを持っていることも大切であると思う。自分の看護観についてたまには考えてみてはいかがだろうか。
この記事のライター
Haru
東京で生まれ育ち、大学卒業後、都内病院でICU看護師として働く。3年目で退職し、オーストラリア、シドニーに語学留学へ。その後2021年にイギリスへ渡英し、2023年英国看護師免許を取得。現在ロンドン国営病院の胸部外科病棟に勤務。趣味は、旅行、アウトドア全般、スポーツ観戦、映画鑑賞、読書。 https://note.com/haluuuuu64/ イギリスの看護師事情についてのブログや英国看護師を目指す方へ相談を中心としたサポートをしています。
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