「函館宣言」発出!~消化器外科医の男女均等な活躍を支援する~

2023年7月14日、日本消化器外科学会で画期的な宣言が発出されました。その名も「函館宣言」です。今回は、学会の男女共同参画委員として「函館宣言」の発出に携わった筆者とともに、消化器外科医の男女均等な活躍を支援する「函館宣言」の詳細に迫りましょう。

「函館宣言」発出!~消化器外科医の男女均等な活躍を支援する~

目次

  1. この記事の筆者
  2. 「函館宣言」発出!
  3. 宣言の元になった論文
  4. 男女の手術執刀数の差はなぜ?
  5. 消化器外科のこれから

この記事の筆者

大越先生
大越先生
消化器外科医。1999年京都大学卒業。
大腸癌の手術をメインに腹腔鏡下胆嚢摘出術、腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術などの低侵襲手術を執刀しています。消化器外科関連のみならず、男女共同参画、医師の労働環境などに関する論文を多数執筆しています。

「函館宣言」発出!

  2023年7月14日、日本消化器外科学会で画期的な宣言が発出されました。消化器外科医としての男女の均等な活躍を支援する、という趣旨の宣言です。私は学会の男女共同参画委員として、この宣言の草稿を作成するお手伝いをいたしました。もちろん、発出されるまでには様々な方々の推敲を経ています。

宣言の元になった論文

 元々は、大阪医科薬科大学の河野恵美子先生を筆頭著者とする我々の論文"Surgical Experience Disparity Between Male and Female Surgeons in Japan"により、男女の消化器外科医の手術執刀数に差があることが明らかになり、このことを学会としても憂慮したのです。

 この論文では、日本の外科手術の95%以上が登録されているNational Clinical Database(NCD)というデータベースより2013~2017年のデータを用いて、消化器外科で低難度(胆嚢摘出術・虫垂切除術)、中難度(幽門側胃切除術・右側結腸切除術)、高難度(低位前方切除術・膵頭十二指腸切除術)と言われる手術をそれぞれ2術式ずつ取り上げ、消化器外科医1人あたりの執刀数を男女間で比較しました。すると、いずれの術式においても女性消化器外科医は男性消化器外科医よりも執刀数が少なく、この差は難易度の高い手術でより顕著であることが明らかになりました。経験年数とともにその差が拡大しており、それは単に、妊娠・出産・育児などの影響だけでは説明できないものでした。

Surgical Experience Disparity Between Male and Female Surgeons in Japan

男女の手術執刀数の差はなぜ?

 なぜ、女性消化器外科医は手術執刀数が少ないのでしょうか。

 手術件数の少ない病院にいたり、乳腺など消化器外科以外の手術を担当していたり、上司の気分?で手術が割り振られていたり、ということかと思います。24時間365日病院に駆けつけられないなら手術させられない、という主義の外科医が手術担当を決めているならば、家で家事や育児を主として担当している女性はどうしても不利でしょう。もちろん、家庭内で女性が家事育児の主たる担い手であるという現状も変えていかなければなりません。男性がもっと家庭にコミットできるようにしていかなければなりませんね。そのためには長時間労働にもっと大ナタを振るわなければなりません。それなのに、医師の働き方改革の軟弱なこと!

 本当に、外科医は24時間365日病院に駆けつけなければならないのか考えてみれば、それは持続可能な医療とは程遠いと思います。そしてそんなことは、外科医としての技量とは直接関係のないことです。外科チームとして一定のレベルの診療を提供できるならば、どのように分担しても良いと思います。

消化器外科のこれから

 幸い、女に外科は向かないという旧来の空気は失われつつあります(少なくとも表向き口に出したら一発退場でしょう)。ただ、真に機会均等になっているかと言えば大いに疑問です。手術の割り振りをする立場の方には、部下の事情をよく聞き取った上でより公平な割り振りをお願いしたいと思います。

 さて、この宣言では、単に男女の手術執刀数の格差をなくそう、と言っているだけではなく、男女の手術執刀数がちゃんと均等に割り振られているか定期的に検証することを明言しました。目標を掲げるのは簡単ですが、実効性を伴うものにするにはどうすればいいのでしょう。これからも知恵を絞っていかなければなりません。

 性別に関係なく手術技術を習得し、手術成績を向上させられるような消化器外科学会であって欲しいと思っています。実際、他の外科系学会に先んじてこういう画期的な宣言を発出したんですから、きっと魅力的な領域となり、人気が出るのではないかなと夢想しています。

 もちろん、他の外科系学会でも消化器外科学会に引き続いて男女の機会均等を志していただければさらに良いと思います。

大越香江

この記事のライター

大越香江

日本消化器外科学会指導医・専門医。日本外科学会専門医・指導医。 日本消化器外科学会男女共同参画委員。日本臨床外科学会評議員。日本内視鏡外科学会評議員。 消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)副会長。 大腸癌の手術をメインに腹腔鏡下胆嚢摘出術、腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術などの低侵襲手術を執刀する消化器外科医。1999年京都大学卒業。 消化器外科関連のみならず、男女共同参画、医師の労働環境などに関する論文多数あり。

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