【快挙!】女性外科医が宇宙飛行士候補に!ジェンダーロールにとらわれず

この度の宇宙飛行士候補者選抜の結果、2人の候補者が選出され、ひとりは女性外科医でした。医療現場に留まらず、活躍の場を宇宙に広げられていて、とても素晴らしいと思いました。性別に関係なく、誰もが自由に未来を切り開いていけるような社会であってほしいと思っています。

【快挙!】女性外科医が宇宙飛行士候補に!ジェンダーロールにとらわれず

目次

  1. この記事の筆者
  2. 女性外科医が宇宙飛行士候補者に
  3. 日本初の女性宇宙飛行士は外科医
  4. 「毅然と」答えるのは女性だから?
  5. 外科医の「温かみ」と「能力」
  6. ジェンダーロールからの解放

この記事の筆者

大越香江
大越香江
消化器外科医。1999年京都大学卒業。
大腸癌の手術をメインに腹腔鏡下胆嚢摘出術、腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術などの低侵襲手術を執刀しています。消化器外科関連のみならず、男女共同参画、医師の労働環境などに関する論文を多数執筆しています。

女性外科医が宇宙飛行士候補者に

2023年2月28日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の記者会見で、宇宙飛行士候補者選抜の結果が公表されました。4127人の応募者の中から選ばれた2人の宇宙飛行士候補者のうち、ひとりが外科医の米田あゆ先生でした。心から素晴らしいと思いました。

皆さんの感想はいかがですか?外科医なのにもったいないという話もありましたが、やりたいことに果敢にチャレンジする姿はとても素敵ですよね。日本外科学会からも会員である米田先生にエールを送る声明を出しています。

日本外科学会からの米田先生へのエール

日本初の女性宇宙飛行士は外科医

日本初の女性宇宙飛行士は心臓血管外科医の向井千秋先生です。1985年に選出されているので、私はしっかり記憶があります。

私は、消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)の副会長をしていますが(2023年3月現在)、会の5周年記念セミナーとして、向井千秋さんに講演をお願いしたので、その際にお会いしたことがあります。2021年の7月のことです。

消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)

向井さんは、当直明けに宇宙飛行士の募集の新聞記事を見て応募しようと思ったそうです。講演の際に「日本人だから、女性だからと、皆さん自分で自身の限界を作ってしまうことがあると思いますが、取っ払わなければなりません。」とおっしゃっていたのが印象に残っています。詳しくはAEGIS-Womenのニュースレターをご覧くださいね。

自分で自分の壁を作らないことが大事、仮にあったとしてもそれを取っ払う努力が必要だということです。しかし、その壁の頑強さに苦しめられることがあるのも事実です。

AEGIS-Womenのニュースレター

「毅然と」答えるのは女性だから?

さて、米田あゆさんですが、記者会見で家族のことなどのプライバシーに関する質問を受けて丁重にお断りになりました。私は妥当な対応だったと思います。

この時の態度について「ぴしゃり」とか「毅然と」という形容で報じたweb記事を見ました。米田さんは丁寧にお答えになったと私は思っているのですが、女性がお断りすると「ぴしゃり」とか「毅然と」とか言われがちなのかな、という気がします。「毅然と」はともかく、男性が「ぴしゃり」と回答する、とはあまり言いませんよね。女性がはっきり答えた場合に使われることが多い表現だと思います。

外科医の「温かみ」と「能力」

外科医の性別が女性外科医と男性外科医の認知にどの程度影響を及ぼすかを調査したオンラインの調査研究があります。

女性外科医は男性外科医よりも「温かみ」のある評価を受け、男性外科医は女性外科医よりも外科医としての「能力」の評価が高かったという結果でした。人々が外科医に抱く評価にも、ジェンダーステレオタイプが波及している可能性があります。

出典論文

そういう私も、かなり年配の男性外科医から「女の外科医は気がきつい」と面と向かって言われたことがあります。私が、先輩に対する敬意を払いつつも外科医として対等に意見を申し上げることを「気がきつい」と感じられたのかもしれません。そのようなことを面と向かって言われるような、女性外科医が歓迎されない環境で生きていくのに、気持ちを強く持っていないとやっていられないという面もあります。

もちろん、私以外の女性外科医もしっかりした方ばかりですから、「温かみ」を期待されると裏切られた感じがするのかもしれません。そもそも「気がきつい」という表現もあまり男性には使わないと思います。 

ジェンダーロールからの解放

「女性はこうあるべき」「外科医はこうあるべき」という壁を自分で作ってしまうこともありますし、他人が作ってしまうこともあります。期待されるようにふるまう方が楽なこともありますので、「温かみのある女性外科医」を目指しても良いのかもしれません。しかし、私はややへそ曲がりなので、あまりそういう方向には行きたくありません。むしろ、社会から要求される「女性」というジェンダーロールから抜け出して自由になりたいといつも考えています。

少なくとも、やりたいことをやって、言いたいことを言って(それが法に反するとか人を傷つけるとかいうことではない限り)許容される社会であってほしいと願っています。

最後になりましたが、米田あゆ先生、本当におめでとうございます。

大越香江

この記事のライター

大越香江

日本消化器外科学会指導医・専門医。日本外科学会専門医・指導医。 日本消化器外科学会男女共同参画委員。日本臨床外科学会評議員。日本内視鏡外科学会評議員。 消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)副会長。 大腸癌の手術をメインに腹腔鏡下胆嚢摘出術、腹腔鏡下鼠経ヘルニア修復術などの低侵襲手術を執刀する消化器外科医。1999年京都大学卒業。 消化器外科関連のみならず、男女共同参画、医師の労働環境などに関する論文多数あり。

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