結婚後に医師の働き方はどう変わる?医療政策研究者にインタビュー!

皆さんは結婚後の働き方についてどのような希望をお持ちでしょうか。今回は医師の結婚とフルタイム勤務への影響について、今年の11月にJAMA Network Openに論文を出版された、東京大学医学部公衆衛生学教室の宮脇敦士先生にインタビューをさせていただきました。

結婚後に医師の働き方はどう変わる?医療政策研究者にインタビュー!

目次

  1. iCoi Blog初、研究者の先生にインタビューしました!
  2. 宮脇敦士先生のご経歴
  3. ご専門は医療政策に関する研究
  4. 男女で大きく違う、結婚後の働き方の変化
  5. 医師の価値観に基づく研究を
  6. 大切なのは、多様性と医療の質のバランス

iCoi Blog初、研究者の先生にインタビューしました!

iCoi Blogでは、女性医師の結婚や子育て、ワークライフバランスに関する情報を学術的な側面からも発信しています。今回は、iCoi Blogを開設して初めて、研究者の先生にお話を伺いました。

インタビューに応じてくださったのは、医療政策がご専門の宮脇敦士先生です。宮脇先生は、今年の11月にJAMA Netowork Openより「医師の結婚相手とフルタイム勤務率」についての論文を出版されました。

宮脇敦士先生のご経歴

2013年、東京大学医学部医学科卒業。初期研修後、東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻にて医療政策・応用統計を専攻し、博士号取得。UCLA医学部客員研究員などを経て、現在、東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学教室助教。

researchmapはこちらから!

ご専門は医療政策に関する研究

宮脇先生はこれまでどのような研究をされていらっしゃったのでしょうか?

医療の質や医療へのアクセスの向上に興味があり、医療政策に関する研究を専門としています。具体的には介護をしている人、ホームレスの方、子どもなど、社会的に弱い立場にある方々の健康や医療の提供のあり方に関する研究や、COVID-19の流行が医療システムにどのような影響を及ぼすかなどの研究をしてきました。

そこから今回の研究をするに至ったきっかけを教えてください。

最近では、医師の働き方や人種などの多様性がホットトピックです。これらの研究は世界のトップジャーナルにも掲載されるようになってきています。

特に女性医師が世界的に増えている中で、医師のジェンダーギャップやライフワークバランスに関する研究が徐々に行われるようになりました。最近では、日本でも外科医の執刀数に関するジェンダーギャップについての研究が出されるなどしていますよね。

そうですね。最近iCoiでも世界の女性医師の割合について記事を出しました。

私自身も医師として10年目になりますが、周りの同年代では医師同士で結婚されている方は多い印象があります。しかしながら、結婚して出産・育児によって退職・休職した女性が、常勤医として戻りにくかったり、専門性を高められずに困っているというケースが少なくないように思います。

それにも関わらず、今の日本の医療現場では、この状況が大きく改善されているとは実感しがたく、課題意識を持っていました。そのような経緯もあり、今回特に既婚の医師の働き方をテーマに研究をすることにしました。

男女で大きく違う、結婚後の働き方の変化

改めて今回出版された論文の内容について教えてください。

論文のテーマは、医師の結婚相手とフルタイム勤務率です。国勢調査のデータから25,321人(女性17.6%)の既婚の医師を対象として、医師の結婚相手がフルタイム勤務率にどのように関連しているのかを分析しました。

まず、女性医師の69%は男性医師と結婚していることがわかりました。また、男性医師と結婚した女性医師は、夫が非医師である場合に比べてフルタイム勤務率が低い結果になりました(76.3% vs 68.1%)。一方、男性医師は結婚相手の職業によらず、ほとんど全員がフルタイム勤務でした。

このことから、男性医師は結婚相手の職業が働き方にはほとんど影響しない一方で、女性医師は医師と結婚している場合、フルタイム勤務がしづらくなっている可能性を示しました。その背景には、フルタイム勤務が残業やオンコール、当直を伴う柔軟性に乏しい働き方であることがあること、女性側が男性より子育てにおける役割を期待され、フルタイム勤務をやめる選択をしている可能性が考えられます。

この結果に対する宮脇先生の率直な感想を教えてください。

女性医師の結婚相手は7割近くが医師であったのは、予想よりも高く、驚きました。また、女性医師のフルタイム勤務率は夫の職業に関わらず80%未満と、想定よりも低かったです。今回の研究における「フルタイム勤務」は、国勢調査の前1週間の過ごし方を問う質問で「主に仕事」と選択した方と定義したので、正直もっと多いと予想していました。

この数字について私たちはどのような解釈をしたら良いのでしょうか?

本研究は、医師同士の結婚の是非について価値判断を置く研究ではありません。客観的にデータを示し、現状を把握することが目的でした。

そのため、この研究をもとに医師同士の結婚を推進したり、否定するべきではないと思います。実際、私自身は、結婚とは個人の志向であり、パートナーと楽しい生活が送れれば個人レベルでは良いと思っています。

しかしながら、男性医師が結婚相手によらずほぼ全員がフルタイム勤務であるのに対し、女性医師は68.1%と低い事実は、男女の医師双方ともが知っておいて損はないと思います。

医師の価値観に基づく研究を

今回の研究を踏まえた今後の展望について教えてください。

今回使用した国勢調査のデータだけでは、女性側が結婚後に仕方なくフルタイム勤務を辞めてしまったのか、もともと結婚後にフルタイム勤務を辞めたいと考えていたかについてはわかりません。

つまり、医師の価値観については分からなかったということですね。

はい。その点で、女性医師が結婚前に、将来どのような勤務形態を希望していたかがわかるデータがあれば、より詳細に研究ができると思います。iCoiさんでそういう研究ができるとしたら楽しみですね。

大切なのは、多様性と医療の質のバランス

私自身、医療現場において、様々な背景を持った人が働いているという多様性があることは大切だと思います。それは、単に倫理的な話にとどまりません。

例えば外科手術において患者と同じ性別の医師が執刀した方が予後が良いというデータがあります。それにも関わらず、同じ性別の患者をカバーするだけの十分な数の医師がいなければ、医療の質に影響する可能性があるのです。 実際、外科患者の半分は女性であるにも関わらず、外科医の女性割合はとても低いことが知られています。 

そのため、女性医師が働きやすい環境を作り、女性医師が臨床現場に出て多様性を生み出すことが医療の質の向上に繋がる可能性もあるかもしれません。

皆様には、お時間がありましたら、ぜひ今回の論文を読んでいただきたいです。今回のような具体的なデータを知ることは、結婚に打算的になるということではなく、選択肢を考える上での重要な一つの要素になると思います。

宮脇先生、ありがとうございました。

宮脇先生の論文はこちらから!
さき

この記事のライター

さき

関東圏の女子医学生。 内科系、統計学や疫学に興味があります。

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