都市部研修医の地方出向制度、本当に医師偏在解消につながるのか?

2026年度から、都市部の病院で採用された臨床研修医が一定期間地方で働く新制度が導入されることが明らかになりました。この制度は、深刻化する地域の医師不足問題に対応するための施策ですが、果たして効果的な解決策となるでしょうか?

都市部研修医の地方出向制度、本当に医師偏在解消につながるのか?

目次

  1. 私は何者?
  2. 新制度の概要と背景
  3. 地方病院の現状 - 医師不足の深刻さ
  4. 都内研修医の現状:限られた経験と働き方改革による保護
  5. 今後予想される地域偏在問題の顛末
  6. 新制度は本質的な解決策となるか?
  7. 本質的な解決策:地方の労働環境整備と診療報酬加算
  8. まとめ:持続可能な地域医療体制の構築を

私は何者?

Dr.パンダ
Dr.パンダ
都内の大学を卒業後、ハイパー地方病院で激しい研修をした専攻医。今はエンジニアやiCoiライターとして副業をしつつ、総合病院での臨床を続けています。

新制度の概要と背景

厚生労働省は2024年10月、2026年度から都市部の研修医に地方病院での一定期間の勤務を義務付ける新制度を導入すると発表しました。この制度では、東京、大阪、京都、岡山、福岡の5都府県の研修医が対象となり、年間130人以上が医師不足地域の13県などに半年以上派遣されることになります。

制度の目的は、深刻化する医師の地域偏在の解消です。しかし、この制度で本当に問題は解決するのでしょうか?

地方病院の現状 - 医師不足の深刻さ

私が研修医として勤務していた地方の中核病院では、救急外来は研修医が中心となって回していました。夜間や休日の当直では、研修医3-4人で初期対応を行い、必要に応じて上級医にコンサルトする体制でした。

正直に言えば、かなりハードな勤務でした。救急車で運ばれてくる重症患者から、軽症の walk-in 患者まで、様々なケースに対応しなければなりません。時には、自分の能力を超えた判断を迫られることもありました。

しかし、その一方で、この経験は医師としての成長に大きく寄与したと感じています。都内の大病院では経験できないような、幅広い症例に触れることができました。

都内研修医の現状:限られた経験と働き方改革による保護

一方、都内の大病院で研修する医師の状況は大きく異なります。専門性の高い症例が中心で、common disease への対応機会は限られています。また、2024年4月から本格化した医師の働き方改革により、勤務時間に厳しい制限が設けられています。確かに、過酷な労働環境は改善されつつあります。しかし、医師としての経験を積む機会は、地方病院と比べると限定的と言わざるを得ません。

今後予想される地域偏在問題の顛末

そういうわけで、今回厚労省は都市部の研修医を地方に出向させることで、地方研修医の不足であったり、魅力を感じてもらうことで長期的に地方の医師を増やそうという目録見のようですね。

この政策が功を奏するかは分かりません。とはいえ、このままでは、地方の医療は厳しい状況になることは火を見るより明らかです。

  • 24時間体制の救急外来維持が困難
  • 専門医の負担増加
  • 地域医療の質の低下

こうした状況になっていくことはある程度は防ぎようが無いのかもしれません。後期研修医以降の話ではありますが、最近では派遣先の地方病院から医局員を引き上げる大学病院も増えてきています

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新制度は本質的な解決策となるか?

厚労省の新制度は、都市部の研修医に地方医療の現場を経験させることで、将来的な地方勤務への興味を喚起する狙いがあります。確かに、地方の魅力に触れ、そこでのキャリアを選択する医師も出てくるかもしれません。しかし、半年程度の短期間の勤務で、本当に地域医療の担い手を育成できるでしょうか?また、毎年入れ替わる研修医に頼る体制では、地域医療の質の向上や継続性の確保は難しいのではないでしょうか?

Dr.パンダ
Dr.パンダ
個人的な意見ですが、「都内で研修したい!」といってマッチングしていった先生達がちょっとの期間地方で働いたことで、「やっぱり地方が良い!」とはなりにくいのでは、、、と思いますが。

本質的な解決策:地方の労働環境整備と診療報酬加算

私見ではありますが、医師の地域偏在問題を根本的に解決するには、以下の2点が不可欠だと考えています。

1. 地方病院の労働環境整備

地方病院では、「この医師がいないとこの診療科が成り立たない」という状況が少なくありません。そのような過酷な環境では、どんなに使命感のある医師でも長期的な勤務は困難です。

労働環境の改善には、医療機器の充実、サポートスタッフの増員、オンコール体制の整備などが必要です。書類業務は医師がやるのではなく、タスクシフトを積極的に進めて行く必要があるでしょう。また、家族も含めた生活環境の整備も重要です。

地方勤務医への診療報酬加算による給与アップ

地方勤務医への診療報酬加算を設け、都市部と遜色ない、あるいはそれ以上の給与水準を確保することが、人材確保には不可欠でしょう。

どの医師がどこでやっても、同一疾患に対しては同じ入院加算が付かない状況では、医師の給料を上げづらいです。よく医師は給料をもらいすぎだ!なんて意見をSNSで見かけますが、私はそうは全く思いません。地方に人を集めたいのであれば、中途半端な本音を隠した理想を掲げるのではなく、地方の人件費を上げられるように診療報酬改定を行い、医師の給料を引き上げるしかないと思っています。

まとめ:持続可能な地域医療体制の構築を

医師の地域偏在問題は、日本の医療が抱える根深い課題の一つです。短期的な研修医の派遣だけでなく、地方で長期的にキャリアを築ける環境づくりが必要不可欠です。

iCoi Blogでは、こうした医師のワークライフバランスに関する記事を多数発信しています。医療現場の生の声を政策に反映させ、持続可能な地域医療体制を構築することが、真の意味での医師偏在解消につながるのではないでしょうか。この問題に関心をお持ちの方、ご意見やご経験がありましたら、ぜひコメント欄でお聞かせください。

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Dr.パンダ

この記事のライター

Dr.パンダ

地方出身、中高は公立で東京大学に入学し、医学科に進学して令和X年に卒業しました。現在は、地方の急性期病院にて勤務しています。ひとりの若手医師として心の内をリアルにお届けできればと思います。

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